包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

良い精神科医の探し方 薬物療法編

病院に行くからには、願うことならば名医に診てもらいたい。当然の考えだろう。
名医とまでは言わなくとも、悪くない医者を探したい。一体どういう医者が良くて、どういう医者が良くないのだろうか。

一般的に病院を受診するときというのは、何かに困っている時だ。痛い、苦しい、体の様子がいつもと違う。こんなことをきっかけに、病院を受診することだろう。
では精神科はどうだろうか。元気が出ない、悲しい、眠れない…。このあたりは分かりやすい。長く続いて改善しないとき、もしかして精神科かもしれないと思って受診する。困って受診するパターンだ。
しかし精神患者の中には、「本人」は困っていなくて、「家族や周囲」が受診してほしいパターンも多い。ボケて暴れる、妄想に支配されている、アルコールがやめられない…。この場合は、困っている主体が本人ではないので、実は少し違ってくるかもしれない。

精神科の治療は大きく二つ、薬物療法精神療法にわけられる。その根底を支えるのが診断能力だ。そして何より、医者自身の人となりも大切だろう。もちろん全てに精通しているのがベストだが、どうやって見分けるか。


まず薬物療法に関して。本当は、医者によって違いが無いことが理想だ。精神科に限らず現在は Evidence-Based Medicine と言って、勘や経験ではなく「証拠に基づいて処方する」という治療が推奨されている。ガイドラインという治療指針が示されていて、それに沿って治療を行っていくのだ。「うつ病ならこの薬のグループからまずは処方してください。統合失調症ならこの薬のグループからまずは処方してください。効かないときは、この治療にしてください」という具合に、道筋があらかた決まっている。にもかかわらず、ドクター間で治療に差が出るのはなぜだろうか。一つは、あくまでも大雑把な取り決めであること。例えばSSRIというグループの抗うつ薬の中にも、5種類に分かれており、その中のどれにするかは治療者に委ねられている。また、ガイドラインはたびたび改定されており、キチンと勉強していないとあっという間に置いて行かれてしまう。そして、先に述べた診断能力の問題も加わってくる。精神科は身体化と違って、病名がクリアカットに決まらないのだ。たとえばうつ病と不安障害は時に似た症状を呈すし、それが悪化するとまるで統合失調症のような症状に変化することもある。さらに発達障害が基盤にあったりして、「この検査結果ならこの病気」と決まっていないのだ。そのため治療者間で方針に差が出てくる。なにしろガイドラインはあくまでも病名に対する方針なので、病名自体が間違っていれば行き先が変わってしまうのだ。
こんな事情で差が出る薬物療法だが、どうやって良し悪しを見極めたらいいだろうか。

古い薬をなるべく使わないこと
はじめから沢山薬を出さないこと

この2つが簡便で分かりやすいのではないかと思う。
まず古い薬というのは副作用が強いことが多い。近年は抗うつ薬抗精神病薬などの進歩が著しく、随分良い薬が出てきている。そのためガイドラインでも、最初に出す薬は新しい薬が望ましい、と言及されている。当然、普通は新しい薬から出す。しかし、不勉強な年配の先生は知識がアップグレードされておらず、いつまでも古い薬を使いたがる。使い慣れている薬のほうが、微調整もしやすいし、コントロールがしやすいのだ。巧みな技術で微調整して副作用をコントロールする名医も中にはいるのだろう。しかしけしてそんな名医は多くはないと思う。繰り返しになるが普通は、ガイドライン通りに治療するし、そうすべきなのだ。なにしろたくさんの臨床研究から証拠を集めてきて、一番効く治療方針をまとめたのがガイドラインなのだから。基本が出来ていない医者は、私ならば少し避けたい気持ちになってくる。
続いてたくさん種類を出す医者についてだが、こちらはあなたの病気を絞りきれていない可能性が高い。診断能力低めの可能性ありだ。そもそもたくさんの薬を出すと、どの薬が効いてどの薬が効かなかったのかわかりづらくなる。そのため普通は、一剤ずつ調整することが望ましい(急ぐ場合などはやむを得ないこともあるけれど)。2種類、極まれに3種類ぐらい同時に出すことがないわけではないけれど、それを超えて4種類5種類と出したり変えたりする医者は、少し様子を見たほうがいいかもしれない。結果として、薬が増えていくことはあるので、単純な数だけで見ないでほしい。「一度の診察で変える数」が重要だ。


調子が悪いと伝えても、いつまでも薬も変わらず変化がない
これは、その医者にはあなたは治せない可能性がある。もう手が無いので、薬が変わらないのだ。治す意思がある限りはより良い薬を目指して変化させていくし、変化させないならば「あえて変化させていない理由」を伝える。当然そうだろう。助けてくれと言っているのに、ただ見守っているだけの人に用はないのだから。こんな時は、他の医者をみてみるのも手だと思う。


治療方針の説明がない。なぜその薬を飲むのか説明がない。
近年、SDMという考えが浸透してきている。Shared Decision Makingと言って、Dicision(決定)をshare(共有)してmake(作る)していこう、という考えだ。医者だけが決めていくのではなく、選択肢を一緒に考える。これが出来ない医者も、とても多い。選択肢を伝えるときに時間がかかるので、省きがちなのだ。どうしても忙しいと伝えきれないこともあるので、これ単体で医者を変えるほどではないけれど、考えを共有してくれる医者は、良い医者と言っていいだろう。