包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

「やる気の出る」声のかけ方

いろいろな精神科医がいると思う。そんないろいろな精神科医をたくさん集めてきて、治療が上手くいきがちな医者と、滞りがちな医者に分類する。それぞれの話し方を分析して、それぞれの話し方の違いを見つけてくる。そうして治療が上手いきやすい話し方をまとめたものが、動機づけ面接である。動機づけとはつまり、「やる気を出させる」という意味だ。

動機づけ面接の詳しい内容は成書に譲るとして、私が意識している部分を記事にしようと思う。

 

とにかく、なによりも意識して話すのは、「話さない」事。説教しない事と言い換えても良い。診察の場面では、どうしても必要な説明はある。これはこんな薬ですよとか、こんな治療法がありますよとか。それは良いのだが、「あなたはこうした方がいいですよ」と自分の意見を投げない事が大切だ。

 

「勉強しなさい」と言われて勉強する気になる人がどれだけいるだろうか。

「お風呂にはいりなさい」と言われて風呂に入りたくなる人はどれだけいるだろうか。

 

人は指示されると、したくなくなる。しかしもちろん、声をかけないとそれはそれで勉強なんてしない。お風呂だって出来ることならばあとで入りたいのが人の常だろう。それを上手く誘導するのが、理想的な話し方だ。

 

1.自分の考えを伝えるのは良い

「お母さんは勉強してほしいよ」「お風呂に今入ってくれたら助かるよ」

あなたがどう感じているかを伝えることは、良い。ただしこの時、思い通りに動いてくれないからと言って腹を立てるのは違う。あなたが思っていることを聞いて、どう動くかは相手が決めるのだ。焦ってはいけない。

 

2.良いか悪いかは、相手が決める

「勉強した方が良いよ」

この声掛けは実はイマイチだ。勉強した方が良いかどうかは、相手が決める。このセリフは相手に行動を求める命令に近い

一方で

「勉強した方が良いのになぁ」

この声掛けは、良い。語尾のわずかな違いだが、意味は大きく変わってくる。これはあくまでも、自分がそう思っているだけで、相手に言っているのではない。ただ独り言が漏れたのだ。人がどう思うかは自由なのだから、相手はそれに対して腹を立てる筋合いが無い。反発したくても「はいはいそうですか」「うるさいなぁ」と漏らすぐらいしか手が無いだろう。そうして何事もなかったかのように勉強せず過ごすだろうが、大丈夫、きちんと相手の耳には届いている。「言われて動いた」と感じられると嫌なので、すぐには動けないけれど、心の中では「そうだよなぁ」と感じているから安心していい。遊んでばかりいてはいけないことぐらい、本当は分かっているのだ。ちなみにこれは独り言なので、1.と同様思い通りにならないからと言って腹を立てるのはお門違いなので注意したい。あくまでも、選ぶ権利は相手にあることを忘れないように。

 

3.報酬はやる気が下がる

「勉強したらゲームをしていいよ」

厳密には、一時的にやる気があがる。しかしこの言い方はつまり、嫌なことをすると報酬があるよ、という言い方だ。暗に「勉強は嫌な事」「ゲームは楽しいこと」という意味合いを刷り込んでしまう。この表現を続けていると、勉強は我慢しないといけない事だと頭が覚えてしまう。時にやる気にブーストをかけるために用いるのは良いが、常用はなるべく控えたい。

 

4.準備期間を与える

「今すぐ勉強しなさい」

今私はパソコンで記事を書いているし、これを読んでいるあなたはパソコンなりスマホなりで記事を読んでいる。誰でもどんな時でも、何かしらしている。ソファでテレビも携帯を見ずボーっとしている時ですら、それは「ボーっとしている」のだ。

していることを中断するのは、エネルギーがいる。もちろんできないことは無い。今この記事を書くのをやめて、お風呂に行くことだって出来なくはない。しかしそのためには、下書き保存をして、次に書こうと思っていた内容を忘れないよう意識にしっかりとどめる必要がある。さらにお風呂に入った後、もう一度この記事を書くために集中して、思い出さないといけない。行動を中断するのはとても手間がかかり、強いストレスなのだ。

これが丁度記事を書き終わって、さあ次何をしようと考えている時ならばどうだろうか。また受けるストレスは違ってくるだろう。お風呂に入る負担はだいぶん少なくなる。

人にはみな、タイミングがある。

しかしそのタイミングを後ろでずっと見ているわけにはいかない。こちらはこちらで用事があるのだ。だからこそ、準備期間を与えるのである。時間をあげて、自分でタイミングを作ってもらうのだ。

きっとあなたにも理由はあるだろう。今しないと寝る時間が無くなりそうとか、教えれる時間がなくなるとか、今すぐしてほしい理由はあるのだろう。しかし相手にも、今したくない理由があることを理解してあげてほしい。そして折衷案として、準備する時間を上げるのだ。5分なのか10分なのか、はたまた30分必要なのかは、相手と話し合う必要がある。これは一方的に押し付けるものではない。しかし準備期間をあげてタイミングを作ってあげることで、随分スムーズに移行することが出来ると思う。

 

5.聞き返しを使う

これこそ動機づけの本質なのだが、少し高度な話になる。

聞き返しの最もスタンダードなものは、「勉強したくない」に対して「へー、勉強したくないんだぁ」とオウム返しをする事だ。これをもう少し応用していく。たとえばゲームをしていて、いいところだから止められない子供がいたとしよう。どうして勉強しないのかと聞くと、きっとこう言うだろう。

「今ゲームで忙しい!」ゲームに熱中するあまりこちらに目線もやらず、吐き捨てるように呟くさまが目に浮かぶ。ここで怒るのではなく、冷静に相手の発言を分析する。これはつまり、「ゲームで忙しい(から勉強出来ない)」ということだ。そのまま聞き返してあげるといい。「へー、ゲームで忙しいから勉強出来ないんだ」チクリと胸に刺さる、なかなかいい聞き返しだ。そう言われると自分でも何となく、馬鹿なことを言っているのが実感出来ることだろう。しかしまだ相手も折れるわけにはいかない。なにしろ折れたら勉強しないといけないのだから。きっとこう言うだろう。

「そうだよ、忙しいから勉強出来ないんだ。もうほっといて!」

ここでどのセリフに注目するかを、あなたは選ぶ権利がある。「もうほっといて」に注目して、親に対してなんて言い方だ!!と怒鳴ることも出来るだろう。しかしそれでは当初の勉強させるという目標から随分それてしまう。あなたはスッキリするだろうが、望ましいとは言い難い。ここで注目すべきは、前半のセリフだ。

 

ゲームで忙しいから、勉強出来ない

これはつまり

ゲームが忙しくなければ、勉強できる

 

という意味だろう。ここで少し変化をつけて聞き返す。

「へー、じゃあゲームがキリが良いところまで行ったら、勉強しようと思ってたんだ」

 

この聞き返しで、相手はNOと言えなくなる。

これが聞き返しの強いところだ。こちらの意見を述べると「それは違う」とか「嫌だ」と拒否・否定する権利を与えてしまうが、聞き返しの場合こちらの意見も指示も何もない。ただ相手が言った言葉を解釈して、言い返すだけなのだ。直前に自分の言ったことなので「違う」と言えず、気持ちが自然と切り替わる。切り替えるしか言葉と状況の整合性が取れないのだから仕方がない。

こうして「ゲームがしたいだけの子」を、喧嘩することなく「キリが良くなったら勉強をするつもりの子」に進化させることが出来た。

「勉強しなさい」と命令してうるさいババアだと思われるよりも、勉強に対するやる気が僅かばかり出てきそうなことが分かるだろうか。

 

 

 

「やる気を出させる声掛け」の根底にあるのは、「相手も状況を良くしたいと思っているだろう」という信じる気持ちだ。自ら進んで人生を滅亡の方向へ進めたい人などいないのだ。勉強する必要があることだって本当は分かっているし、風呂だって入らないといけないことは本当は分かっているのだ。わかっているけど、○○。この○○の部分を上手に消してあげることが出来れば、自然とやる気がわいてくる。

相手を信じるところから、はじめてみてほしい。