包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

うつの時どう過ごすか

「どうしていたらいいですか」

診察室でこんな風にきいてくる人がいる。うつ病になると頭が回らなくなり、自分に自信が持てず、なにをやっていてもダメな気がする。どれも上手くいかなくて、そんな状況も苦しくて、過ごし方が分からない。今のままでいいのか、はたまた苦しいけど何か練習をしたほうがいいのか。早く元に戻る方法が知りたくて、こんな質問が出てくるのだろう。

果たしてどんな風に過ごすのが正解だろうか。

こんな質問をもらった時、私は少し時間をもらって、次のような話をしている。

 

 

まずは今までの人生を振り返ってみる。生まれてきてから今まで、どう過ごしていただろうか。

生まれて間もないころは何もできず、すべてを親に任せていただろう。食事や排せつに至るまで、すべてを手伝ってもらう必要がある。はじめは上手に寝る事も出来ず寝ぐずりをして、両親はヘトヘトになりながらあなたを寝かしつける。寝たと思ってもすぐにまた起きてきて、リズムも安定していない。しかしそうこうしているうちに感覚が発達してきて、周囲の状況に気を払う余裕が出てくる。目や耳を使って、世界の情報を仕入れていく。

幼児期になると出来ることが増えてくる。トイレも行けるし、服だって自分できれる。時々こぼすけど食事も自分で食べられる。だけど外へ行くのはまだまだ心配で、大人に手を握ってもらっていたほうが安心だろう。まだ一人でできないこともたくさんあって、手伝ってもらいながら過ごしていく。毎日楽しく遊ぶことがこの頃の課題だ。

小学校ぐらいになれば、遊ぶだけとはいかなくなってくる。一年生のころから少しずつ、短い時間とはいえ勉強の時間が入り始める。はじめは簡単な内容で授業の数も少ないが、6年生にもなれば6限目まで授業がつまり、そのあとにクラブ活動なんてものまであったりする。

中学、高校とすすむにつれてさらに勉強の質、量が増えていく。人によっては専門学校や大学を経て、ついに仕事を始めていくのだ。

 

 

さて、ここまでで言いたいことは何となく伝わるかもしれない。あなたは今までの人生で、年齢分の時間をかけて、徐々にステップアップしてきたのだ。そのまま上手くいっていればよかったのだが、残念ながらその途中でうつ病につまづいてしまった。ステップが下がってしまったあなたは、再び元の位置まで戻らないといけない。

大ジャンプを決めて元の自分にぴょーんと戻りたいと、勇んでいる方も多いだろう。大ジャンプが成功し、華麗に復帰できる人も中に入る。急いでジャンプしたい気持ちが分からないわけではないのだが、以前に書いた記事も参考にしてもらいたい。

 

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 失敗すると、それは大きく自信を失う悪手となる

 

私がおススメするのは、それぞれにあったステップから始めることだ。

まずは自分の位置を確認しよう。これが何よりも大切だ。どうか曇りのない目で自分を見てみてほしい。分からないときは家族や友人、周りの人に聞いてみても良いだろう。一旦バリバリ働いていた、輝いていた自分は置いておこう。そこに戻るために、置いておこう。

今のあなたは何が出来るだろうか。

夜は眠れる?お風呂は入れる?食事は食べられる?

すこし散歩をしてみたり、本を読んでみたり、楽しむことが出来る?

買い物へ行ったり、友達と遊んだり、外で過ごすことは出来るだろうか?

ちょっとした勉強は?体力をつけるために毎日運動出来る?

 

乳児期:食事も満足に取れず、手助けが無いと最低限の生活も出来ない状態ならば、まずは生き残ることを最優先にしよう。場合によっては入院を考えても良いレベルなのだから。

幼児期:最低限の生活は行えるようになってきたら次は、ぜひ遊ぶ練習をしよう。遊ぶことだって、はじめは上手に出来ないものだ。遊ぶといっても別に走り回る必要はない。のんびりぼーっと過ごすだけでも構わない。とにかく、自分が楽なように過ごす練習をしていこう。

小学校~:遊ぶのは十分楽しめる。外に出ることも苦ではない。ここまで来てようやく、「本当はやりたくない事」をする練習をはじめよう。しかしだからといって、まだ仕事は早い。小学校なんだから、仕事ではなく「仕事に向けたやりたくない事」をしていこう。たとえば少し家事を手伝ってみたり、資格の勉強をしてみたり、リワークを利用してみるのも良いかもしれない。ボランティアをする人もいる。はじめから一日中やってやろうとは思わないで!!最初は半日とか、1時間とか、10分でも良いぐらいだ。失敗しないことが大切なのだから、少ない時間から少しずつ、出来ることを確認しながらすすんでいこう。

高校~大学:「本当はやりたくない事」が9時~5時だろうと、やろうと思えばできる。それぐらいのレベルになってきたら、いよいよ仕事を検討していく時だ。ここでもどうか復帰を焦らないで。職場とよく相談を。転職ならば条件をよく検討を。

 

大切なのは自分の段階を知る事。そして一つずつ、確認しながら上がっていくことです。一度踏み外しているからこそ、慎重に、一歩ずつ