包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

体調不良を訴えて病院受診を繰り返す人

体がしんどい、耐えられない、苦しい、痛い
色々な訴えで、人は病院を受診する。病気が見つかればそれを治療していくのだが、幸か不幸か、原因が見つからない人もいる。そうなるとそのしんどさや苦しさは、改善する方法がない。中には大きな病院で精査して原因がはっきりしてくる人もいるだろう。是非とも身体科でしっかりと検査をしていってもらいたい。そしてどんなに精査しても原因が見つからないとき、精神疾患の可能性が出てくる。

特に夜間救急を何度も受診したり、家族が疲弊するほどあちこちへ受診する人は要注意だ。

ついこの間も、私の勤務する病院へ夜12時ごろ、そんな患者が受診した。近くにある大きな総合病院からの紹介だ。
「しんどい」という訴えで、連日総合病院を受診。いろいろな検査をしたが原因は分からず、手の打ちようがない。毎日のように救急受診を繰り返し、出来ることは無いという医師に食って掛かり、対応に苦慮して精神科へ紹介されたのだ。
深夜に受診したその患者には夫が付き添っており、連日の病院受診に付き添わされ表情は疲れ切っていた。
どんなしんどさなのか、いつからか、などを聞こうとするが、しんどい、苦しい、痛いなどと訴えは少しずつ変わっていき、再現性に乏しい。また具体的な表現はほとんどなく非常にあいまいで、実際にどの程度しんどさがあるのかが不明瞭だった。素人目にみても、精神科の範疇と予想がつくような様相に思えた。
ご主人は「もうどうしようもないので入院させて検査をしてください」と希望された。しかし身体科で検査して何もないのならば精神科で検査をしても何もないことは明白だ。そもそも検査の設備規模が違うのだから。

このような患者は別段稀ではなく、度々目にする。決まって家族は疲弊しており、入院させてくれと依頼する。
まさかその反応が、患者のしんどさを悪化させているとは夢にも思わないだろう。

疾病利得という言葉がある。病気でいる事に利や得があるということだ。病気になることが良いことだなんて、そんなことはあるのだろうか。それがあるのだ。
学校へ行こうとすると頭やお腹が痛くなる人。これなんかは非常にわかりやすいケースだ。お腹が痛いから、学校を休める。行かなくてよくなるのだ。こういったパターンでは、お休みの電話を学校へいれてもらってしばらくすると、元気になってくることが多い。これは仮病とは違う。仮病ではなく本当に、おなかや頭が痛くなるからたちが悪い。(もちろん仮病のケースも中にはあるだろうが)
周りからは仮病にしか見えず、嘘ばっかりと責めてしまい、本当に痛くて困っている本人の気分はどんどん沈んでいき、症状は悪化の一途を辿る。

ではこの病院受診を繰り返すケースはどうだろうか。どんな得があるだろうか。
上記の患者は非常にわかりやすかった。話をしていると、「こんなにしんどいのに周りは何もしてくれない。散歩に行って来いとか、掃除をしろとか言われるんです」と、自分から言うことが出来たのだ。
おそらくこの症状が出始める前、家族は家事や育児をあまり手伝うことが無かったのだろう。そしてこの症状が出始めたころ、家族は心配してくれたり、家事や育児を多少手伝ってくれたのだろう。こうして脳は学習していく。しんどくなると、心配してもらえる。しんどくなると、手伝ってもらえる。しかし何度か繰り返すと周囲も慣れていってしまう。慣れてしまうので更なる心配や手伝いを引き出すために、症状を強めるしかない。こうして段々としんどさは強まり、周りが心配して困ってくれる夜間や休日など、あまり好ましくない時間帯に病院受診を繰り返すようになっていくのだ。そのほうが心配してもらえるから。

一体どうすればよかったのだろうか。どうすればいいのだろうか。
気にしないようにする。これは一つの正解だ。サイレントベイビーという言葉がある。ネグレクトと呼ばれる、泣いていても放置される家庭で育った赤ちゃんは、泣かなくなるのだ。泣いても意味が無いので、泣かなくなる。この症例でも同じことが起こせる可能性はある。どんなにしんどいと表現しても全く相手にしない。そうすれば訴えが減ってくる可能性もあるのだが、それがハッピーかと言われると違うように思う。
私がこういった人や家族に提案するのは、「振り回されない事」。適度な付き合いを提案するようにしている。

病院への受診は、病院が指示する決まった頻度で受診する。
家事や育児は、しんどさに関わらず手伝う。
健康な時ほど、話しかけたり相手をしてあげる。

とくに3つ目が重要だ。病気の時ばかり心配して病院受診に付き添うから、悪化するのだ。悪化してから「入院させるしかないと思うんです」なんて突き放してももう遅い。入院は一時しのぎにしかならない。退院したらまた家族と暮らすのだから、同じことを繰り返す事になる。突き放すよりも、家の中で落ち着く方法を探さないといけない。ずっと入院は出来ないのだから。

疾病利得からくる病気の場合、以下の4つが大切だ。
病気でいる事の得を減らす。病気でいる事の損を増やす。
健康でいる事の得を増やす。健康でいる事の損を減らす。

この中で、「病気でいる事の損を増やす」はおススメしない。そうでなくとも病気は損なのだ。損なのに、やむを得ず病気になっているのだから、そこに追い打ちをかけるのは精神科的に良い治療とは言えないだろう。

ルールを決めて、その枠の中で、出来る範囲で心配してあげる、相手をしてあげる。健康でいればいるほど、得が増えるような状況を作る。こうしていくことで、病院受診の頻度を減らしていくことが出来る。面倒だからこそ、突き放さず丁寧に。