包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

ルールは、後出ししてはいけない

人と人が生きていくうえで、ルールは大切だ。憲法からはじまってたわいのない口約束まで、ありとあらゆるルールが世の中にはある。

 

www.outaku1.com

 さて、ルールを作るうえで、気を付けたい事がある。上の記事にあるように「するほうも破ってはいけない」のが一つ。そしてもう一つ、「後出ししてはいけない」という事だ。

 

例を挙げよう。

中学校3年生の女の子。学校で友達とうまくいかず、沈んだ気持ちで過ごしている。中学1校年生の時からリストカットをはじめており、最近では頻度が増えて事あるごとにカミソリを握ってしまう。母親は強く心配しており、ある日とうとう病院へ連れていかれる。そこで母親はこういうわけた。

自傷行為が止まらないんです。どうしたらいいかわからない。もう家では診れません。入院させてください」

 

臨床の現場で度々目にする光景だ。こんな時私は、「入院は特効薬ではないんだ」という話をしたりして、ひとまず入院はせず場を収めることが多い。

さてこのシチュエーションで、女の子の視点に立つとどうだろうか。さぞ驚くことだろう。擬音でいうとキョトーンだ。なにしろ今までリストカットを何度もしており、許されてきたのだ。にもかかわらず、今日突然病院へ連れていかれ、「もう家では診きれません」と言われる。世界のルールが急に変わったのだ。「リストカットしてもみてくれる家族」から「リストカットをするとみきれない家族」に変わってしまった。

この弊害は何かというと、この女の子の中で地盤がゆがんでしまう事だ。今までOKだった事が、突然何の脈絡もなくNGになってしまう。

 

何の気なしに道を歩いていたら、急に落とし穴があってケガをした。それから先、道を安心して歩いていけるだろうか。落とし穴はないかとビクビクしてしまわないだろうか。

 

大げさだが、ルールを後からねじ込むことは、世界が信じられなくなるきっかけになり得る。

もちろん母親の視線から見れば全く突然ではなく、あたりまえでしょうと感じるだろう。しかし果たして本当に当たり前だろうか。事前に「次にリストカットをしたら病院へ行きます」であったり「もうそろそろ心配の限界です」といった予告を口にしていただろうか。態度だけでは伝わらないことが多い。

 

ルールはあらかじめ決めておくべきだ。あとから変えるのはズルいのだ。

・薬を飲まないと入院になります

・ご飯を食べないとおやつは無しです

・夜は9時までに帰ってきましょう

当たり前と思うようなルールでも、キチンと言葉にしてお互いに合意する癖をつけよう。あなたの当たり前は、その人の当たり前ではないのだから。