包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

医者は診察と診察の間に何してるの?

私がまだ子供だった頃。当時よく熱を出していた私は、度々かかりつけの内科クリニックを受診することがあった。

年配の方がずらっと並ぶ中、子供の自分が椅子を一つ占領するということに、なんだか少し小気味好い感覚すら覚えるほどだった。私がかかっていた内科クリニックは小さいながらもなかなかに人気な病院で、診察券を出してから呼ばれるまでに1時間で済めば早いぐらいだった。待っている間に置いてあるジャンプを読んでみるのだが、まだ幼くて漫画に馴染みもなく、ストーリーもあまり分からないので続かない。貼ってあるポスターを読んでみたり、少し子供っぽいかなと思いながら、ノンタンシリーズの絵本を読んだりして時間をつぶす。

そうして一時間ほど経って自分の番が近づくと、受付から自分の名前を呼ぶ声がする。はーい、と返事をすると、診察室前の廊下においてある椅子へ移動するよう指示される。言われた通り移動すると、自分より前に呼ばれた人が一人か二人すでに座っていて、残った最後の椅子へ腰を下ろす。ほどなくして、今ではめっきり見なくなったナースキャップを被った看護師が現れて、体温を測っておくようにと体温計を渡してくれる。当時は今ほどすぐに結果が出るような体温計ではなく、1,2分ほどわきの下に挟んだ後、ピピピピッ、と静かな廊下に音が響く。

そうこうしているうちに自分の前に座っていた人が呼ばれて診察室に吸い込まれ、少しの間母親と二人きりで時を待つ。廊下が静かなものだから、それにつられてひそひそ声で雑談をしたのもいい思い出だ。数分後、前の人が診察室からのっそりと出てきた後、さあ自分の番だと耳を澄まして呼ばれるのを待つのだが、待てど暮らせど名前が呼ばれない。

 

こんな経験をしたことはないだろうか。前の人は出て行ったのに、どうしてすぐに呼ばれないんだと、子供心に憤っていたおぼえがある。

 

今こうして医者になって分かるのは、結構忙しいんだということだ。

・先に出ていった人のカルテを書く
診察しながら記載すれば早く済むのだが、キチンと表情や態度を見ながら診察することはとても大切な事なので、なかなか全部を診察中に書くのは難しい。

・薬の処方をする
昨今の電子カルテはちょっとしたことでエラーを吐き出すので時に時間がかかる。全く同じ日数で同じ薬を出すのなら良いのだが、少しでも変えようと思うと30秒から一分近く持っていかれることもザラだ。

・採血の結果を見る
たくさん並んだ数字を、間違えて読み飛ばしでもしたら大ごとだ。一つ一つ指でなぞりながら、異常値がないかを確認していく。検査の結果が悪かったりすると、次の対応を考えて指示を出して、と5分10分があっという間に消えていく。

・ほかの病院の電話
頻繁ではないが、他の病院から電話がかかってくることもある。患者からの電話は看護師に対応してもらうことが多いが、他の医者からの電話となるとそうもいかない。医者は医者と話すという暗黙のルールがあるのだ。かつ、失礼のないように丁寧に対応すべしという暗黙のルールもあり、応対に時間がかかる。

・あなたのカルテを見直す
特に久しぶりの受診の人なんかは、カルテを見直して何をしていたか思い出している。まるで覚えていましたと言わんばかりに会話をしているが、実はあんまり覚えていなかったりする。なにしろ毎日数十人診察しているのだ。しかも似たような病気を。カルテで見直さないと思い出せないことも多い。というか、カルテを見直しても誰だっけな、と思いながら見ている事すらある。
何をしていたか思い出せたときは、今日は何をしようかまで考える。言われるであろうパターンをいくつか想定し、どう対応しようかまで一通り検討して、ようやく名前を呼ぶのだ。

 

このように、診察と診察の間でも色々としている。ほかの医者から治療の相談を受けたりすることもあるし、入院患者の対応に関して病棟から電話鳴ったりもする。検査結果を待ちながら2人3人と続けてみたりもするし、マルチタスクが要求される仕事だなぁと、常々思う。