包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

10代の「死にたい」をどうするか

通院中の10代患者の母親から、こんな電話がかかってくる。

「娘が遺書を書いていて、もう死ぬと電話をしてきたんです。一体どうしたらいいですか」

また別の若い患者は、診察室でこう言う。

「最近死にたいしか考えられないんです。どうやって死のうかばかり考えます。」

 

ふとツイッターを見てみると、「死にたい」「死のうと思う」なんて言葉が溢れていて、その下にはフォロワーたちの励ましの言葉が溢れていて。
こういった若い人たちの「死にたい」に、周囲はどう反応するのが良いのだろうか。

 

 

とても難しいのだが、まず見極めが大切だ。この「死にたい」は本当に切迫していて死ぬ他に手がないという意味での死にたいなのか、はたまた死にたいぐらい困っていて助けて!の意味の死にたいなのか。

精神科医としては、まずうつ病をはじめとした疾患が隠れていないかをよく観察する。死にたい以外に不眠や食欲減退、意欲低下、活動力の低下などが伴っていないか。今この瞬間ではなく、ここ数週間を振り返ってみてほしい。ここ数週間常に悲哀感が溢れていて、意欲も集中力も落ちているようならば、うつ病が隠れている可能性がある。その「死にたい」は要注意であり、ただちに病院の受診が必要だろう。

一方で、今はとても元気がないけれど、普段は普通に楽しくふるまっている時もあるし、友達ともよく遊んで電話をして、活動的。家族に対して喧嘩腰ではあるけれど、けしてエネルギーが枯渇しているわけではなさそう、というのであればそれはうつ病とは違うかもしれない。(うつ病とは違うが「死ぬことは無い」という意味ではないので注意)

 

 うつ病の場合は、適切な治療が必要だ。病院受診からはじめよう。
しかし多くの若い人たちは、表現型系こそ「死にたい」だが、うつ病のそれとは違う事が多い。

 

 

小さい子が喧嘩している時に、「もう〇〇ちゃんとは一生口きかない!!」なんて言う姿を目にしたことがある。10代の死にたいは、その延長線ととらえてあげると分かりやすいかもしれない。

涙を流して絶好宣言をしたその5分後にはそんな言葉は忘れていて、楽しくまた遊びだす。もしかしたら1時間ぐらい喧嘩は続くかもしれないが、結局次の日にはまた遊びだす。
このとき、もう口をきかないといったその子は嘘をついたのかというと、そうではない。喧嘩をしている時は本当に、一生口をきかない覚悟をしている。それぐらい辛い気持ちで、永遠に遊びたく無いと思った気持に嘘はない。
どうせすぐ仲直りするからと軽んじるべきではないのだ。それはその子にとって最上級の怒りのセリフであり、その気持ちはくみ取ってあげる必要がある

 

若い人からの「死にたい」は、これと似たような雰囲気を感じる。今その瞬間、辛さや悲しさは極限まで高まっており、決して無視をしてよいわけではない。いつも言っているからと軽んじてしまうことは避けなければいけない。本当に死にたいほど辛いのであって、嘘をついているわけではないのだ。
しかしその気持ちは長くは持続しない。人の感情は本来ずっとは続かない。どんなに面白い漫才を見ても数分すれば笑いはおさまるし、悲しい映画だって30分も経てば忘れ去ってその日の晩御飯を考え出す。病的な希死念慮との違いはここだ。病的な希死念慮は治療が終わらない限り続く。しかし若い人の「死にたい」は永遠には続かないので、さっきまで「死にたい」だったのが、ころっと変わっていたりする。

繰り返す「死にたい」に家族は振り回され疲弊していき、病院で相談をする。一体どうしたらいいですか、と。

話は戻って、思い出してほしい。「もう口きかない!」と子供が言ったとき、どうしただろうか。「口を利かないなんてダメです!」と叱っただろうか。それとも「一生口を利かないなんて言うんです。もううちの子はダメです・・・」と絶望しただろうか。
「死にたい」や「口きかない」「一生遊ばない」の字義通りの意味は、それほど重要ではないのだ。その言葉の後ろに隠れている、そう思うに至った経緯こそが大切だ。どうして「死にたい」と思うようになったのか。なにが起こっていて生きづらいのか。どうなれば状況は改善するのか。

どうしたの?ときいてみても、まともな回答は帰ってこないかもしれない。はじめはそんなものだ。「もう一生口きかない!」といった子供だって、その直後に理由をきいたところで泣いて話せなかったり、怒りがこっちにまで飛んできたり。そんなものだろう。
それに合わせてこっちまで取り乱してしまうと、事態は余計に混乱してしまう。「どうしてお母さんにまで怒るの!!!もうお母さん生きていけない!!!」なんてなったら、状況は落ち着きようがないだろう。4歳や5歳の子供でもそうなのだから、もっと複雑になった10代20代の悩みは、簡単には解決できない

別にそれでよいのだ。「どうしたの?」「何か手伝えることはある?」何歳になろうと、そう聞いてあげればいい。話せるタイミングがきたら、理由を話してくれるかもしれない。話してくれないかもしれない。ともかく、「私はあなたのことを心配しているよ」「出来ることは手伝うよ」この2つのメッセージを根気強く発信し続けることが、大切だと私は思う。