包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

症状を無視しないで

例えばくも膜下出血という病気がある。ご存知の方もいるだろう。頭の中のくも膜下腔という場所へ出血が起こり、激しい頭痛を引き起こす。非常に緊急度の高い、命に関わる病気だ。
この時、なぜ頭痛が起こるのだろうか。実は人間の膜は痛みを強く感じるようにできている。膜で出来ている眼球は、ちょっとしたことで強い痛みを感じる。腹膜というおなかの中の膜に炎症が起これば、これまた激しい痛みを引き起こす。初めての性行為で女性が痛いのも、膜が傷ついていることを考えれば当然の事だろう。
このように、膜は痛い。そしてくも膜も例にもれず、痛いのだ。そのためくも膜に血が出ると、ものすごく痛む。
なぜ膜が痛むように出来ているのだろうか。それは体からの大事なサインだからだ。たとえばくも膜下出血を考えれば、何しろ頭の中で出血が起こっているのだ。これほど緊急で、致命的な出来事もそうはないだろう。だからあえて、痛むように出来ているのだ。


さて、こころの話に戻ろう。

身体表現性障害という病気がある。こころのストレスが、体の症状として表出される病気だ。表出の仕方は様々で、痛みの事もあるし、しびれもあるし、力が入らない、吐き気がするなど症状はなんでもござれだ。そういった症状に困っていくつも病院を受診するのだが、どんなに検査をしても結果は正常。どこにも異常が見つからない。周り回って精神科へたどり着く、そんな病気だ。
この身体表現性障害も当然そうだし、そうでなくとも疲れたら頭痛が現れる人、無理をした次の日に熱が出る人、緊張するとめまいがする人、いろいろな人がいるだろう。病名こそつかないまでも、ストレスがかかると体に反応が出ることは良くあることだ。
果たして、この症状たちは一体何のために出現しているだろう。いやがらせだろうか?暇つぶしだろうか?

これは体からの大事なサインなのだ。
「今、体にとって良くない事が起こっている。気づいて対処してほしい」
体がそう言っている。
これはくも膜のように初めから備わった機能ではない。あなたの脳がなんとか作り出した、なけなしのサインだ。決していやがらせで出ているわけではない。
このまま無視をしていてはいけない、重大なエラーが起こっている。イライラさせてみたり、集中力を下げてみたり、なんとか気づいてもらおうと頑張ったが、あなたはなかなか気づいてくれない。困った脳はどうにか気づいてもらおうと、なんとか対処せざるを得ないサインを作り出したのだ。


目の前で傷つき倒れている人がいたらどうするだろうか。災害の時なんかは、多少傷ついていてもそれどころではないと、頑張れと励まして、無理やり歩かせることもあるだろう。しかし多くの場合、大丈夫かと声をかけて、少し休んでいなさいと木陰にでも避難させるんじゃないだろうか。
目の前どころか、自分の中で、傷つき助けてと声を上げる人がいるときに、あなたはどうするだろうか。もしや頭痛やしびれに鞭打って、普段通りの生活を続けようとしてはいないだろうか


痛みやだるさなど、症状は決して心地よくない信号を送ってくる。とても不快でどうにかしたいと、そう思うだろう。対処してもらうために、わざと不快なサインを脳は送っているのだから当然だ。
ここで「どうにかする」を、「無視する」と読み間違えてはいけない無視された声は、さらに大きくなって返ってくる

クモ膜下出血の時は、くも膜に血が出ているから痛いのだ。さて、あなたの痛みはどうして起こっているのだろうか。一通り検査をして見つからない理由の痛みだ。ここから先は検査ではなく、心の中で理由を探してみよう。思い当たることは無いだろうか?あなたの心がSOSを出す理由は、何かないだろうか?

対処するのは難しい理由なことが多いだろう。仕事がつらい、育児が大変、親が、夫が・・・。
簡単に対処できないからこそ、ここまでストレスが大きく膨らんでいるのだろう。それでもあなたは、ストレスを減らす方法を考えないといけない
ほかの人は出来ているのにどうして私だけ、と涙が出たりもするだろう。それでもあなたは、負担を減らさないといけない
一度サインが出始めると、すべての能力が著しく低下する。くも膜下出血を起こしながら、バリバリ仕事は出来ないのだ。とにかく一旦負担を減らし、症状を抑えよう。それから、どうやって生活を立て直すか、ゆっくり考えよう。周りの人と相談しながら、病院で主治医と相談しながら、みんなで考えよう。
誰かに助けての声を、無視してはいけない。自分の声を、無視してはいけない。