包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

精神科薬の簡単な分類、覚え方

研修医のとき、どの科も薬の多さに驚いたものだ。とりわけ精神科は種類が多く感じて、混乱したものだ。そうでなくとも数が多いのに、その上さらに商品名やら一般名やらが混在し、結局覚えきれないまま後期研修医となって。突然外来に放り出され、いまいち名前と効能が一致しないまま診察していたのも、今となっては良い思い出だ。

それから幾星霜たち、今ではさすがに一通り名前も分かり、使い分けも随分できるようになってきた。振り返って考えてみれば、精神科の薬はそんなに多くはないのだ。いや、多いのだが、実際使う薬は多くないのだ。大切なのは分類である。きちんと分類し、グループ分けをすれば、混乱することなく覚えることが出来ることが分かった。

これは私が研修医の指導をするときに、毎回教える内容をまとめたものだ。本来口と図での説明も加えながらするものなので、文章にするとずいぶん長くなってしまうが、是非読んでもらいたい。

簡単に言うと、精神科の薬は3種類+αしかない。

抗精神病薬

抗うつ薬

ベンゾジアゼピン

この3種類+その他だ。ある程度ご存知の方は、もっと他にも種類があるじゃないか!と思うかもしれないが、ひとまず覚える必要はない。理由は後述する。まずはこの3つを、さらに分類していこう。

 

 

 

1. 抗精神病薬

セレネースやリスペリドンなどに代表されるドパミンを下げる薬たちだ。専門的には”メジャー”なんて呼び方をする。抗精神病薬は2つに分類することが出来る。

この2つだ。名前の通り、定型はもともとあった抗精神病薬。非定型はそれらとは少し違った抗精神病薬、新しく開発された”メジャー”たちだ。定型と非定型で何が違うのかは、ここでは長くなるので割愛する。ともかく古い、新しいと思ってもらうと良い。このうち数が多いのは定型抗精神病薬なのだが、実はもう臨床ではほとんど使われていない。

   →ヒルナミンコントミン
   →セレネース

定型ではこの2種類を覚えておけば十分だろう。他は目にする機会があれば、こんなものもあるんだなぁ、程度で十分だ。なぜこの2つを覚えるかというと、ヒルナミンコントミンは一般名クロルプロマジンと呼ばれる最初に発見された抗精神病薬だからだ。統合失調症の薬物治療はここから始まった。今では抗幻覚妄想を期待して使うことはまず無いが、副作用の眠気で度々登場する。睡眠薬として使っていけるため、覚えておいたほうが良い。続いてセレネースだが、これは医療従事者ならば誰しも耳にしたことがあるだろう。現在でも多用される古い薬だ。理由は2つ。注射剤がある事、そしてよくわからないけどこれだけ効く統合失調症がたまにある事。特に鎮静目的での注射剤使用は、どの科でも有り得るので覚えておく必要があるだろう。

  →リスパダール
  →インヴェガ
  →セロクエル
  →ジプレキサ
  →ロナセン
  →ルーラン
  →エビリファイ
  →シクレスト
  →レキサルティ
  →ラツーダ

非定型抗精神病薬は並べてみると結構種類がある。私が後輩に教え始めたころはエビリファイまでしか発売されておらずもう少し短かったのだが、その下の3種類が増えてしまった。

細かい使い分けはまた別の記事で書く予定なので割愛するが、どの科のドクターでもひとまず全部「聞いたことがある」程度にはしておいたほうが良い。ただし覚えるという意味では、インヴェガリスパダール代謝産物(効く成分だけ抽出したモノ)なので、ワンセットのカウントでよいだろう。また、ロナセンルーランに関しては(こんなことを言うとメーカーに怒られそうだが)日本のメーカーが開発した薬であり、海外でのシェアは低い。なんなら日本でのシェアも高くない。ので、覚える優先度は低めで良いだろう。エビリファイも同じく日本のメーカーが開発しているが、世界トップシェアを誇る薬剤であり、こちらは無視できない。

ロナセンは最近貼付剤が出たので、一目置く価値はある。剤型が豊富なことはかなりのアドバンテージである。

シクレストも舌下という特殊な投与経路なので一目置いてよいだろう。

レキサルティ、ラツーダはまだ発売して間もないのでどれぐらいシェアが伸びるかは不明である。(個人的には副作用少ないので好き)

こういった理由で、いくつかは覚える優先順位を下げて灰色にしている。

 

 2.抗うつ薬

何度か記事にしたことがあるので、そちらも目を通してもらうと良いかもしれない。

抗うつ薬の分類は少し数が多い

この4つに、最近トリンテリックスという薬が「セロトニンモジュレーター」なんて新しい分類を引っ提げて登場してきたが、まだ発売して期間も浅いので、現状は覚えなくてよいだろう。ということで、上記4つ。この4つは、

 

  • 3環系、4環系  古い

─────────────

  • SSRI      新しい
  • SNRI
  • NaSSA

 

このように分けられる。そしてメジャーの時と同じく、数が多いのは古いものたちなのだ。もはや我々若い世代が使うことはほとんどないと言ってよいため、覚える必要のある薬はぐっと減る。

 

これらの古いもので覚えておいたほうが良いのは

  →アナフラニール
  →テトラミド

まずはこの2つぐらいだろう。アナフラニールは点滴の出来る抗うつ薬だ。内服が出来ないほど重度のうつ病で使用できるため覚えておく必要がある。テトラミドは名前から分かる通り4環系だ。利用手段としては眠剤としての使用が多い。メジャーのコントミンと同様、眠気の副作用をきたして処方することがあるため、覚えておく価値がある。

 

  • SSRI

 →パキシル
 →ジェイゾロフト
 →デプロメール
 →レクサプロ

 

  • SNRI

 →サインバルタ
 →イフェクサー
 →トレドミン

トレドミンは理由は不明だがあまり使っているのを見かけない。私も人生で一度も自分から処方をしたことが無い。

 

  • NaSSA

 →リフレックス

 

上記のSSRI、SNRI、NaSSAはいずれも頻繁に使うため覚えておく必要がある。各種の特徴は上述のページも参照していただけると幸いだ。

 

3.ベンゾジアゼピン

これに関しては非常に数が多い。かつ、良く使う種類も人によって違うため必然目にする種類が多くなってしまう。

しかしことさら”臨床”という面において言えば、自分で使うであろう種類は多くない。なぜならベンゾジアゼピン系は2種類までしか処方できないからだ。診療報酬の改定により、

睡眠薬2種類まで、抗不安薬2種類まで、睡眠薬抗不安薬3種類まで

という縛りが出来てしまった。ゆえに何種類覚えていようと、処方できるのは2種類までだ。そして作用機序自体はいずれも同じであるため、細かく覚える必要がない

睡眠薬抗不安薬を、作用時間の違う2つずつ覚えれば、ベンゾジアゼピン系はマスターできる。

 

 

以上から、抗精神病薬7種類、抗うつ薬9種類、ベンゾジアゼピン系4種類

合計18種類の薬を覚えることが出来れば、精神科の薬は一通り使えるようになったと言って過言ではないだろう。

 

ちなみに付け加えるならば

4.その他

この項目の話になる。しかしここに分類される薬剤は、気分安定薬や抗酒剤、認知症治療薬など、普段なかなか処方しないようなニッチな分野の話になる。なんなら精神科医ですら、専門にしていなければたまーに出す程度だ。

精神科を目指しているならばもちろん全て把握する必要はあるのだが、そうでないならば急いで覚える必要はないだろう。出てきたときに調べて、なるほどなと思っておけば十分事足りると思う。認知症薬を除けば、精神科以外が量を調整することすら、ほとんどないと言っていい。