包み隠さず精神科

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抗うつ薬は頭の中で何が起こっている?

抗うつ薬が頭の中で何をしているのか。
抗うつ薬には様々な種類があるが、今回はSSRIという種類について話そうと思う。

SSRIは「Selective serotonin reuptake inhibitor」の略称で、日本語訳は「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」となる。
その名の通り、選択的にセロトニンの再取り込みを阻害する薬だ。
もう少し分かりやすく解説していこう。

 

セロトニンとは?

そもそもセロトニンとはなにか。セロトニン神経伝達物質の一つだ。

セロトニンも分からないし神経伝達物質も分からないし何を言っているんだ、という人も多いだろう。

神経伝達物質の話の前に、もう少し分かりやすい神経の話をしよう。
たとえば脳は、神経の塊だ。神経はどんな形をしているだろうか。

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神経は上の画像のような形をしている。見えるようにめちゃくちゃ拡大している。本当は目には見えないぐらいい小さい。このような形をした小さいものがいくつも連なって、脳を形作っているわけだ。すごく簡単に図にすると下のようになる。

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これがとんでもない数繋がっていると思ってほしい。

さて、こんな風に形作られる脳だが、この神経細胞同士は実はくっついているわけではない。拡大してよーく見てみると、ピッタリくっついているわけではなく、間に隙間があいている。ピタッとくっついてひとつながりの細胞になっているのではなく、あくまでも別々の細胞が並んでいるだけなのだ。

 

細胞と細胞の間の事を細胞間隙(さいぼうかんげき)と呼ぶ。隙間が空いているのだ。

こっちの細胞からあっちの細胞まで、情報を渡したい。しかし隙間が空いている。
細胞を岸、隙間を川だと思ってもらうといいだろう。そして届けたい情報、手紙がある。こっちの岸からあっちの岸まで、手紙を届けるイメージだ。

この川を渡って手紙を届ける存在こそ、神経伝達物質だ。手紙を持って川を渡るのはなにもセロトニンくんだけではない。ドパミンくんも、ヒスタミンくんも、他にもたくさんいる。しかし今回は、セロトニンくんに絞って話をしよう。

 

セロトニンくんは真っすぐ進むわけではない

神経伝達物質セロトニンくん)は、手紙をもって意気揚々と川を渡ろうとする。向こう岸の受容体という船着き場にたどり着けばゴールだ。しかし、セロトニンくんはゴールを目指して一直線に進めるわけではない。オールもエンジンもなにも持っていないのだ。

実はセロトニン君は、どこに向かうでもなくただふわふわと漂う。潮の流れに身を任せ、いつの日か向こう岸へたどり着くのを待っている。

幸運なことに、船着き場は一つだけではなくいくつも並んでいる。だから目的もなく漂っているだけでも、それなりにゴールへたどり着ける。

 

再取り込みとは

こうして間隙をただようセロトニンだが、いくら自由に漂うといっても逆走してくるセロトニンはさすがに放っておけない。後ろ向きにすすんでいてはなかなかゴールへたどり着けない。だから見当違いな方向へ進むセロトニンくんは、一旦こちらの岸の船着き場に戻らせて、あらためて出発しなおしてもらう制度がある。これが「再取り込み」だ。一旦元の場所で取り込んで、再出発させるのだ。

こうして前へすすむセロトニンくんはそのまま漂いゴールを目指し、戻ってきたセロトニンくんは仕切り直してもう一度出発する。間隙にはゴールを目指すセロトニンで溢れるわけだ。

 

うつ病とは

セロトニン仮説というものがある。うつ病セロトニンが低下して起こるのではないか、という仮説だ。ほかにもいろいろな学説があるのだが、このセロトニン仮説は有力な仮説の一つだ。

今回の話でいうならば、手紙をもって渡るセロトニンくんが、そもそも少ないのだ。ふわふわ漂って運よくゴールを狙う方法は、たくさん弾があるからこそ成り立つ。広い隙間にほんの僅かなセロトニンくんだけでは、思うように手紙を向こう岸に届けられなくなってしまう

 

抗うつ薬SSRIは何をしているか

SSRIは名前の通り、選択的にセロトニンの再取り込みを阻害している。「選択的に」とは、セロトニン「だけを」という意味だ。セロトニンの再取り込み「だけを」邪魔している。ほかの神経伝達物質の邪魔をしないので、「選択的」と頭につく。

何か分からないが、再取り込みの邪魔をするなんて良くないのではないか。いやいや、そんなことはない。
再取り込みの邪魔をすると、結果としては間隙のセロトニンが増える。本来の方法ならば、見当違いな方向にすすんでいるセロトニンくんは一旦元に戻して、改めて手紙を持たせて出発させるのだが、うつ病ではそうも言っていられない。とにかくセロトニンが圧倒的に足りてないのだ。一度川へ出たセロトニンくんには不退転の覚悟で進んでもらい、とにかく次々にセロトニンを送り出すことに注力する。こうして間隙に漂うセロトニンを増やすことで、情報を向こう岸に伝えやすくする。これがSSRIの役割だ。

 

SSRIは怖い薬か

抗うつ薬」ときくと身構える人がいる。たしかに昔の抗うつ薬は副作用が強く、辛い薬だった。おそらくそのイメージが今もなお独り歩きしているのだろう。

なぜ昔の薬は副作用が多かったのか。昔の抗うつ薬は、セロトニン以外の神経伝達物質もすべからく再取り込み阻害してしまうのだ。そのため、減っているセロトニンのみならず、増やさなくていい他の神経伝達物質まで増やされてしまう

SSRIはそのデメリットを克服した新しいタイプの薬だ。
やっていることは非常に簡単で、神経末端のセロトニンが戻ってくる口を塞ぐだけセロトニンを「増やす」というよりも、「減らさない」と表現した方が適切かもしれない。

警戒するほど頭の中をかき回す薬ではないので、どうか安心して内服してもらいたい。

 

 

 

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