包み隠さず精神科

現役精神科医が精神医療の内情を、包み隠さず話します

精神科医が教える上手な話の聴き方

「あなたと話しているとついつい喋りすぎてしまうわ」
こんなセリフを言われたことはあるだろうか。まるで漫画や小説に出てくるようなフレーズだ。
きっと私に限らず「聞き上手」(自分でいうのもナンだが)と言われる人たちは、言われることがあるのではないだろうか。

話は変わるが幼少期、私が通っていた幼稚園は昼ごはんが給食だった。今のように新型コロナウイルスなんて当然流行っていなかったので、いくつかの小グループに別れて、長机を囲んでわいわい食事を食べたものだ。そんな楽しい給食だったが、私は頻繁に先生に注意を受けていた。私の座っているテーブルがいつも食事を終えるのが遅かったのだ。席を変えても変えても私のいるテーブルがいつも遅くなり、一体どうしたことだろうと園の先生が観察したところ、私がいるせいでみな話し込んで食事の手を止めてしまっている事が分かったそうだ。いわゆる面白い話が出来るかどうかは、頭の回転や才能が占めるウエイトが大きいかもしれない。しかし「聞く」ことならば、そこまで個人差は出ないのではないかと、私は思う。
人は本来、話をするのが好きなのだ。自分の意見を言う事は充実感があり、話が受け入れられることで自分自身も受け入れられていることを実感する。言葉は人間にとって重要なものだ。あとは聞き手が適度に環境を作ってあげられれば、話を弾ませることが出来る。普段私が診療で、どのようなことを意識しているのかを記事にしてみた。参考にしてもらいたい。

立ち位置に気を付けよう

自分と相手の物理的な位置関係は、そもそも話を始める前に意識すべきことだ。
たとえば社長室のど真ん中にある重厚な机は、社長と部下の間に物理的な壁をつくり、心の距離感を演出する。たとえば胸の前でカバンを抱える事で、警戒・緊張・萎縮などの雰囲気を相手に伝えることが出来る。腕を組むだけでも、意識して使えばメッセージを伝えられる。警戒、威圧感・嫌悪感などを伝えて、心の距離を離すことが出来るのだ。嫌な話題になったとき、意識して腕を組むことで相手の無意識領域にメッセージを送る事が出来るだろう。
それとは反対に、あえて近くに位置取る。電車で他の席が空いているのに、あえてすぐ隣に座る。知らないおじさんにされると怖い事だが、なぜ怖いのかというと、距離で好意を伝えられるからだ。どれぐらいの距離を空けるか、間に何を挟むかは意識していきたい。

ちなみに診察の場面では、斜めの位置に座るのがいいと言われている。真っすぐ正面に座ると逆に話がしづらいし、横を向いて話をするのは表情や空気が読みづらい。少し軸をズラして斜めにするのがすすめられている。しかし私の場合、あえて正面を向くことも多い。後述する適切な相槌やジェスチャーを交えれば、話しづらさは軽減することが出来る。一方で、しっかり正面を向くことで「話をしっかり聞いている」ことを伝えられる。当然自分と相手の間にはモノを置かないほうが良い。机などもってのほかだ。この辺りは、自分と相手の距離感をどうしたいかで、都度調整すべき事柄だろう。

余談だが、精神科の診察の場面ではいざという時の逃げ道確保も怠らない。急に殴りかかったり、包丁を向けられたりすることが稀にあるのだ。昔指導医に、危ない人を診察するときは体を斜めにするよう教えられたことがある。急所の並ぶ真ん中を相手に向けないようにするのだ。幸いにして今まで一度も刺されたことは無いが、包丁を向けられるまでは経験がある。

視線をどこに向けるか

話している最中、視線をどこへ向けるかも意識してコントロールすべきだ。きちんと話を聞いていることを伝えたいときは当然相手の目を見る。目を見るのが恥ずかしい時はおでこを見る、というのも定番だ。
一方で話題を変えたいときは、あえて視線を少しずらして気が散っているそぶりを見せる。この時、あまり長時間視線を外すと相手の興がそがれてしまう。ほんの少しだけズラして、また戻す。しばらく時間を空けて、またほんの少しだけズラしてもどす。「ちゃんと話を聞きたいのだけど、気が散っちゃう」を演出するのだ。
さらに話を終えたいというときは、チラッと時計を見よう。逆に言うと、終えたくないときは絶対に時計を見てはいけない。どんなに時間が気になっても、時計に目線が行ったことに気付かれた瞬間空気が変わってしまう。スマホも同じだ。時計とスマホは、「話に興味がない」というアピールに他ならない。してはいけないのではなく、するならば意識してするように心がけたい。私は診察中時間が気になったときは、パソコンでカルテを打つふりをしてそれとなく右下に表示されている時計をみている(本当はカルテにも視線をやるべきではないが、時間の制約などからやむを得ず話しながら記載することが多い)。腕時計もしているが、診察中に見ることはまずない。壁に掛けてある時計は、診察を終えたいときにここぞというタイミングであえて視線をやることはある。なかなか気づいてくれない人の時は、何度もチラチラ時計をみたりもする。
ついでに、話の長い人を診察する時は、はじめからほとんど目線を合わさないように意識をする。はじめの挨拶と一言二言を交わした後は、しっかり目を見続けないようにする。目をなるべく合わさないだけで、話を短くすることが出来る。聞き上手とは違うが、生活で役立つことがあるかもしれない。

目線の高さを意識しよう

私は診察を始める前、椅子に腰かけた段階で必ず椅子の高さを調整する。たいていどの椅子も、一番低いところまで下げてしまう。私はそこそこ背があるほうなので、それでも小柄な女性が相手だと目線が同じかやや上ぐらいになってしまうこともある。そんなときはさらに体を前に倒して、目線を低くする。
目線が高いと高圧的な印象を与える。相手のキャラクターによってはあえて目線を高めにして話すこともあるが、「聞き上手」を目指すならば相手より低くすることは意識したい

相手との距離

立ち位置と似たような話になるが、距離感も話題によって変えるべきだ。前のめりになって顔を近づけることで、興味を持っていることを伝えられる。嫌な話題の時は体を背もたれまで後退させる。椅子自体を近づけたり遠ざけてもいいだろう。きちんと意識することで、距離感も道具の一つとして使っていける
ただ注意点として、近づきすぎないように気を付けたい。パーソナルスペースというものがある。詳しいことは調べれば出てくるのでここでは省くが、ある程度近づくと人を不快に感じさせてしまう。このパーソナルスペースは相手によって変わってくるので、一定の数値はない。イメージとして、手を摑まえられる距離、頭を摑まえられる距離、キスできちゃう距離の3つで考えよう。診察の場合は手を摑まえられる距離以上に近づくことは基本的にないが、プライベートとなれば話は違う。なんなら相手の女性とホテルまで行けるかどうか、距離感である程度判断できたりもする。それとなく近づいて、相手がそれとなく離れるかどうか。不快な距離ならば離れていくので、嫌がられない程度に距離感を試してみても良いだろう。

相槌が流れを決める

相槌は聞き上手を目指すならば当然必要な事だ。しかしただうなずけば良いというものではない。相槌には強弱をつけよう。たとえばこの3つ。
おん < おーん < おおん!?
この3つを話に合わせて順番に言うだけで、相手の話題に食いついている感じが出る。別にこの3つである必要はない。要は、相手の話で盛り上がっている感じを声のトーンで伝えるのだ。さらに言葉自体の強さも変えていくとさらに良い。
「へー」「そうなの?」「マジで?」「いやーマジか!」
こんな4つでも、強弱が出る。相手の話題にあわせてしっかりと強弱をつけよう。
さらに相槌の種類にも気を付けよう。上にあげた例はいずれも話の続きをききたいというニュアンスが含まれる。一方で
「そうなんだ」「やばいね」「ウケる」
この辺りは、相手の話が終わったタイミングで、話題に合わせた強さで返そう。

話の中のどこに注目するかはこちらが選べる

相槌が流れを決めると関連した話になるが、相手の話のどこに相槌を打つかによって、話題を変えることが出来る
たとえば
「昨日彼氏とケーキ食べに行ったんだー」
こんな短い話題でも、
「へー、彼氏といったんだ」
「へー、ケーキ食べに行ったんだ」
どちらにフォーカスするかで、流れが変わってくる。前者は恋愛の話につなげていきやすいし、後者は場所や好きな食べ物などの話題につなげていける。
自分が気になったことに注目するのではない。どんな話をしたいかで、注目する場所を選ぶのだ。

知識を広げろ

たとえば
「昨日映画見に行ったんだー」
と言われたときに、「もしかして〇〇見た?」なんて返せるだけで、話題が弾む。
「漫画読むのが趣味」
と言われたときに、どんなものがいいのか。これは読んだか、などと展開していけることが重要なのは、言うまでもないだろう。
特定の分野に限らず、いろいろな分野で知識を入れよう。話す時にはどんな知識も役に立つ

相手の話に興味を持つ

研修医の時、学生の指導をしていて思ったことがある。女子は本当に、話すのが上手い。何が上手いかって、こちらの話に興味を持っている風に相槌を打ってくれるのだ。質問もどんどんしてくる。笑顔も絶やさないし、凄いとか流石とか、相手をたてる言葉もかかさない。不愛想な男子とは全く違う。
僕も学生だった頃、「おっさんは女子ばっかり贔屓してクソだ」なんて思っていたが、そうではなかったのだ。明らかに、圧倒的に、話の聞き方の格が違う。
その最たるものは、興味を持っている風かどうかだ。「へー」「はい」だけでは終わらない。勉強になります、これはどうなんでしょうか、と質問を入れてくる。私はその時とても反省したものだ。
相手の話に興味を持つ。必須だ。

ジェスチャーは多少大げさでもよい

日本人は少々おとなしいので、動きもおとなしいことが多いけれど、ジェスチャーは大げさにしてよい。褒めるときは拍手をすればいいし、うなずきだって大きくうなずけば良い。表情もしっかり顔に出せばよいのだ。そのほうがしっかり話しているという印象を与えられる。

相手の話を否定しない

相手が何かを話したら、まず一回きちんと受け取ろう。「いや」とか「でも」とか、否定の接続詞も使うべきではない。そうなんだ、そうかな、そうかも。なんでもいいが、「あなたはこう思うんだね」ということを受け取ったうえで、こちらの意見を伝えるよう意識すべきだ。
「ココナッツは臭い」→①「そんなことない。ココナッツはいい匂いだ。」
          →②「そうかな。ココナッツはいい匂いだと思うけど。」
①の「そんなことない」といった段階で、もう話はスムーズにはすすまない。戦いの狼煙を上げているようなものだ。
本当に、本当に、世の中にはまず否定する人が多い。まずは相手の意見を尊重する。とにかく否定しない。

間違い指摘反射に気を付ける

人は、相手が間違ったことを言っていると修正したくなる。これを間違い指摘反射という。
相手が変なことを言うと「違うよ」と言いたくなるのだ。一つ上の相手の話を否定しない、を思い出してほしい。まず一度「そう思うんだね」と受け入れてから、訂正してあげよう。とにかく否定しない!

区切りが良いところまで話させる

ちゃんと話を聞いたことが、どれぐらいあるだろうか。
この間バイト先のクリニックで、一人の患者をカウンセラーと一緒に診察したときの話だ。そのカウンセラーは、患者が何か言うたびに「それはこうでしょう」とか、「こういう事でしょう」とか、「私ならこうする」とか、話の腰を折るのだ。あまりのことに衝撃を受けた。カウンセラーですら、そうなのだ。
会話のキャッチボールをする必要がある。キャッチボールは、球を投げて、相手がとって、投げ返す。別にバッターもランナーもいないのだから、途中でカットする必要も、大急ぎで拾いに行く必要もない。相手がとりやすい球を投げて、ゆっくりとってもらって、またゆっくり投げ返す。それがキャッチボールだ。
自分の知っている話になったり、相手が間違ったことを言ったときに、話を遮ったりしていないだろうか。
きちんと一球ずつ、投げ合おう。聴き上手を目指すなら、2・3球続けて投げさせてあげたっていい。いろんな球があって面白いものだ。相手の話に興味を持とう。